四次元くずかご

自分のかたちを知るために、ことばを連ねてみたなにか

2023-01-01から1年間の記事一覧

動植事典 補遺 1

ヤミ【やみ】 古来、真っ黒で大きな鼬の姿で描かれることが多いヤミだが、もちろんその正確な姿は誰にもわからない。光を食う(掃除機が塵を吸い込むように食うというが、これも通説にすぎない)ヤミの輪郭を光学的に捉えることは不可能だ。 ヤミの姿で唯一…

故に人身に宿りて

見なければよかったと思った時には既に目に入っていたわけで時既に遅く、三郎太は立派に伸びた角を握って、頸をすっぱりと切られた牡鹿の頭部を持ち上げた。重い上に臭う、が仕方ない。札は貼っていなかったが、この時期路上にある鹿の頭はまず間違いなく美…

世界を変えるための或る一つの特異点をめぐる探索行(1)

一章 大いなる知と眠れる過去とがファヌスを長きにわたる探索行へ導く1 農家の四男なのでファヌスの未来に希望はない。もう少し若い頃から家を出てどこかの職人に弟子入りでもしていれば、それなりの道が開けていたかもしれないが、ファヌスは年の離れた長…

散在の所

離宮といえども賤しき者を立ち入らせるのはいかがなものかと進言したのは如何にもな見た目の古参の大臣だったが、彼自身もその言葉を王が聞き入れるとは思っておらず、ただ自分の役割を皆に示すためだけの言であることは、その場にいるほとんどの人間が理解…