四次元くずかご

自分のかたちを知るために、ことばを連ねてみたなにか

2022-01-01から1年間の記事一覧

問と解

問)空間上の任意の2直線について、それが同一平面上にある確率を求めよ。 基本的に僕達は皆、いつもねじれていて、交わることはない。 だからこの状態にはなんの不思議もないのだ。 僕は寝返りをうち、ベッドの右手にある窓のほうへ向き直る。冷たい空気と…

宵前崖上逍遥

高台沿いに延びる道は両側に商店などが立ち並び、此れと言って目を遣るべき風景も見当たらないが、省線の切り通しを跨ぐ橋を渡る時には線路方向へ視界が開け、丹沢からその奥の富士までも一望できる。冬風が帝都の澱んだ空気を海へ押し流し、雑然とした街並…

ya tienen asiento

国境線の上をなぞる尾根歩きは見晴らしも良く足は軽快に進んだが、飾り気のない頂上で尾根道は尽き、私は少々の逡巡の末、左のほうの下りの道を選んだ。しばらく歩くと灌木が周囲に現れ始め、そうかと思ううちに道は深い森へ入った。 もう5日ほど人を見てい…

尋隠者不遇

そんじゃま、そーゆーことで、っつって出てったのが俺の中学の時の同級生と思われる男。思われる、いうんはつまり確証がないからであって、あいつがホンマに吉田くんやったんかを俺はまだ疑ってる。 でももうミッションは始まってて、俺は失踪したあっくんを…

かくて神は身罷られスパイスの芳香だけが残る

暇なので南インド風カレーでも作りながら、神の不在について考えてみましょうか。 まず中華鍋を用意します。“爆”って感じの鉄の本格的なやつは「結局そんな火力、ウチにはないやん」ということで使わぬまま錆びつき、この前捨ててしまったので、形だけが中華…

熱が散り切った夏

海岸沿いに果てしなく延びている道を、老人と子どもが手をつないで歩いている。人二人がやっと並んで歩ける程度の幅のその舗装路はしかし、吹き寄せられた砂に覆われアスファルトが少しも見えなくなっている。 背後の砂地に刻んできた足跡も瞬時に消し去って…

神の来訪

ザリガニ獲りのシゲのところに神が来訪しました。村に神が来たのは4年ぶりです。シゲが言うには、いつものヤッチ沢に向かう途中のフブノのあたりで、突然茂みから姿を現したそうです。 何度聞いても、神の姿についてのシゲの描写は要領を得ません。聞くたび…

再適化 reoptimize

ああ、ずいぶん遅い時間まで起きてしまいました。 空には月が出ているかもしれません。 いや、今日は夜半から雨の予報だったかも。 いずれにせよ私はベランダへ通じるガラス戸を開けたりはしません。花粉が入ってきますからね。 だから月が出ているかどうか…

月光密造のクーデターテープ

慣れてくれば月灯りだけでも十分に歩いていける。それに今日は満月だ。僕が持っているなかで一番頑丈な靴を履いてきたし、ずっと歩いても暑すぎないくらいの重ね着、頭にはタータンチェックのハンチング、完璧だ。 立ち止まって空を見上げる。あの子も月を見…

凍っていた言葉(下)

最初はタクが得意のボケをかましているのかと思ったが、そういや奴とは一緒に酒を飲んだことはなかったなと気づいた。 俺はタクのような学はないが、ここが酒の保管庫だということはわかる。他に何の趣味もない分、酒についてはカネをかけてきたから、目の前…

凍っていた言葉(上)

旧国境を越えて海岸線沿いに北上し、目指す場所がやっと見えてきた。 レンガ造りの倉庫は形を保ったまま斜めに突き刺さるようにして、地面を分厚く覆う灰の中に半ば沈んでいる。間口は幅5m強、奥行きの長さは全貌が見えないので分からないが、沈まず見えてい…

ライフ・イズ・ユージュアル

屋根もないので駅舎というよりただのプラットホームと呼ぶべきこの場所は、普段は日に2本の列車が到着した時でさえも閑散としている。駅のすぐ裏手には夜間照明もあるちょっとしたサッカー場があり、観客席はメインスタンド以外にはないが、このホームがバ…

たどり着けない迷宮

オーケー、私が案内しましょう。と紳士は抑揚のない声で言って、その後になって決まり事を思い出したかのように笑顔を見せる。「ふつうは」 紳士は速過ぎも遅すぎもしない絶妙な速度でわたしの前を歩きながら話し始める。「自分の迷宮にはご自身で到達される…

春は

春は日暮れ時。 やわらかい西陽がきれいな角度で差し込んでくる、故郷の駅のホーム。線路の向こうに見える街の風景は少しずつ変わっていても、陽差しの色は昔から変わらない。否応なしに懐旧に浸される。 発着時刻を告げる電光掲示に、日が長くなったことを…

詰められた正月

コードナンバーなどもなく、ただ名前を聞かれる。そして「お前が予約したのはどの商品か」という質問をされる。それは予約を受けた側で管理する情報ではないのかと面食らうが、価格表を見せられて「どの程度の値段だったか思い出せ」と促され、まぁこれだろ…