四次元くずかご

自分のかたちを知るために、ことばを連ねてみたなにか

たったひとつのものさし

 金で人の心は買えないって、あんたまさか、『フフフ、彼女とは別れるんだ。そうしたら1億円やろう』とか言われても俺は愛の力で断るぜ的な、ありえないシチュエーションをもとにした幻想のこと言ってるんじゃないの? こうやって生活している限り、私たちは毎日毎日、一瞬ごとに金に魂を売り渡してるのよ。既に買われているの。奴らは一つの「尺度」として私たちの中に棲みつく。絶対的な尺度、というわけじゃない。そうでないフリをするのが奴らのやり方。ほんとうは大切な別の何かを尺度としているよね、って甘いことを思い込ませて。でも他人と交換可能な尺度なんて、他に私たちはもってない。歴史上、もてたことがない。せいぜい血縁くらいかしら。そこでこの金っていう尺度は事あるごとに効率や合理性という衣をまとって現れて、私たちにそれ以外の尺度で判断しようとするのを無意識に諦めさせるの。ううん、無意識だからその時はわからない。何を諦めたのかも気付かないの。そのうち諦めていることにも気付かなくなり、やがて諦める以前に、もとより望まなくなる。