四次元くずかご

自分のかたちを知るために、ことばを連ねてみたなにか

美しきクロウラー

 積み上げられた死体の山。
 手足を器用に使い、猿のようにその山に上って、死体の脳をほじくり出し集める小男。
 薄闇の中、眼鏡だけが光を反射し、顔に穿たれた2つの穴のように見える。
「ここは宝の山だ。すべての過去が、並列にここにある。」
 男は慣れた手つきで脳を自らの袋に収納していく。
 ソムリエがワインを抜栓するように淀みのない所作で頭骨を開き、傷一つ付けずに脳をくりぬく。
 重さをはかるように手のひらに乗せ、一瞬にして選別し、選ばれた物だけを滑らせるように腰のベルトに固定された革袋にしまっていく。

 それは彼にしかできない流麗な動作。天才の所業。
 それは誰にでも為し得る可能性のある行動。時代精神の発現。
 古い世代の人間は、その様子を呆れて見ている。
 曰く「死体の脳は既に価値を失っている」
 曰く「無作為に集められた死体に群としての価値はない」
 曰く「個々の死体とのやりとりは一方的な収奪となり、そこに物語的な邂逅はない」
 当然ながら彼はそんな言葉を気にせず、作業に没頭する。

 袋の中では彼に選ばれたいくつもの魂が混じり合い、無慈悲に平等に記号化されてゆく。
 選ばれずに捨ておかれた脳は、ただ他の死体の間に紛れこんでいく。
 旧世代の人間は悲哀と怒りを感じながらそれを無為に眺めている。
 隠しきれない憧憬も、そこにはある。
 関係性の物語から逃げられなかった人間たちにとって、
 秘儀のような動作にも見える彼の手つきが
 実は生まれながらに身につけている自然な振る舞いだと知ることに、
 圧倒的な敗北感を覚えるのだ。

 袋の中で整理された元・魂だったものは、集約され、編集され、出力される。
 それはシンプルで強い、時代の声になるのだろう。
 人間の知の集積の上に立つ無価値、平板さ、
 全ての無駄を取り払った上での円相としての凡庸さ、
 その美しさ。
 古い世代が知りながら届かなかった旋律。
 それは確かにPOPだ。
 人間の新たな到達点だ。

 

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